智男さん：焼き方もタレも自己流。何でも見よう見まねで身につけた。

永子さん：“焼きは一生”っていうでしょ。白焼きは、割いた後にすぐ私が焼くんですが、うるさく注意されますよ。「万遍なく焦げ目を付けないとダメだ」って。でも、熱くて串を持てたもんじゃない。

智男さん：しょっちゅう火傷しているよ。串だって何回も指に刺してさ。1年くらい治らない時だってありますよ、火傷と傷は絶えない。焼くのは勘、焼いている内に段々と身についてくる。あとは、1つ1つの工程を大事にして焼くことが大切かな。
　タレは納得できる味に仕上がるまで何回も試行錯誤を繰り返した。店の味だから細かいレシピは教えてあげられないけどね(笑)。

永子さん：要はね、醤油にしても何でも使うものは全て一級品ということです。分量も細かく量って作っているんですよ。レシピを知っているのはお父さんと私だけ。息子だって知らないんですから。

でも、あとどれくらい焼けるかしらね。お父さん、今年でもう84歳でしょう。誕生日が来るたびにお義父さんのお仏壇に報告するんですよ。「元気でやってますから、安心してくださいね」って。

永子さん：全くないですね。私の生き方はね、たくさんの人に接するお仕事だから、いつも心は素直でいることを心掛けているの。人生で嫌なことがないなんて有り得ないでしょう。嫌なことがあったら、私はそれをノートに書いて大きくバツ印を書くようにしている。「許せない」って思いを込めてね。そうすると不思議なもので、数日後にその相手が謝りにやってくるの。怒りの気持ちはノートに出しちゃってるから、もう私のところには残ってない。だから、誰かと喧嘩したっていう記憶はないですね。
　それに、お父さんは私のことを「母ちゃん、母ちゃん」って頼ってくるでしょ。私が全てなんですよ。だから、何を言われたって気にならない。それくらいお父さんのこと分かりきっちゃってるの(笑)。