前橋で150年、伝統を着る

小川屋は、1875年（明治8年）に創業した群馬県前橋市の老舗呉服店。着物・帯・和装小物の販売はもちろん、仕立てや加工、着付け、保管やお手入れまで幅広く対応している。経験豊富なスタッフが常駐し、一人ひとりに寄り添った提案を大切にしてきた。伝統と信頼を受け継ぎながら、現代の暮らしに合った着物文化を発信し続けている。

－－小川屋さんは、前橋市内でも指折りの老舗店ですね。

伊藤さん　創業は明治8年（1875年）、今年で150周年を迎えました。
当時は今よりも本町寄りにあり、その後明治41年に現在地に移転。創業時から呉服店であったそうで、私は五代目となります。
前橋中央商店街（前橋市千代田町）も含め、この一帯は前橋空襲で焼けてしまったので…
当時店にあった資料や商材は一切残っておらず、戦火を免れた代表の実家にあった写真などが、今となっては貴重な資料になっています。
そういう経緯もあって、創業当時の細かいことはなかなかわからないことが多いのです。本当に残念ですね。

－－そんな戦禍も経て、今年創業150周年となりました。

伊藤さん　おかげさまで三代にわたりご愛顧いただいているお客様もあり、多くのお客様に支えられた150年だったなと思います。
150周年を記念して…、というのは特に考えていないのですが、わずかに残った戦前資料を含め、これまでの資料を使ってメモリアル動画など作ろうかなと思っています。
150周年記念ロゴは用意しましたので、これを使った記念品は計画しています。手ぬぐいとかになるのかな。色々構想中です。

－－五代目を受け継ぐと決めたきっかけ

伊藤さん　私自身、もともとこの業界で働いておりましたし、ご縁をいただいたな、という気持ちでしたね。

－－老舗を継ぐ、ということのお気持ちはいかがでしょうか

伊藤さん　社会人としての一歩目から着物業界で仕事をしてまいりましたので、この業界へ恩返しをするにはありがたい立場だと実感しています。
お店の跡を継いでという気負いよりは、着物業界そのものの発展に尽力し貢献したいというのが私の願いです。
群馬の養蚕農家さんの廃業を見てきているのでね…作る人がいなくなったら売るものもなくなってしまうので。作り手を守るのも呉服屋である我々の大きな役割なのです。
業界が良くなる、地域が良くなる、だからお店が良くなると信じています！

－－前橋中央商店街の理事長も務めていらっしゃいます。

伊藤さん　前橋中央商店街のみなさんは、結束力も頼もしいので本当に心強いです。
バブル崩壊後にこの業界に入った私は、前橋まちなかがシャッター街といわれた時代からのスタートでした。いわゆる「良い時代」を知らない自分は、気負いもプレッシャーもなくて、それが強みだと思っています。

－－前橋中央商店街といえば、もうすぐ七夕まつりですね。イベント開催など予定があれば。

伊藤さん　毎年恒例の、無料のゆかた着付け教室を今年も開催します。
6月末から8月初旬まで毎週土曜日に、ゆかたの着付けを指南いたします。
夏祭り・花火大会など、夏のイベントをゆかたで楽しめると好評です。

－－社長の考える、着物の将来像をお教え下さい。

伊藤さん　着物って、着るだけで非日常を感じられる大変良いアイテムなのですが、呉服店としての立場の私がさらに大切にしたいと考えていることがありまして。
それが、「特別な日に特別なものを身につける」という最高の日を演出するには着物は最適だということ。
七五三、成人式、結婚式、葬儀も。着物って相手を思いやるために選び取るものなんですよね。
普段着としての着物も良いけれども、日本の良い文化に気づく「特別なもの」としての着物を伝えたい。着るだけで気持ちが上がる、「また着たいな」と思える着物文化を大事にしたいですね。

－－小川屋さんの今後の展望など。

伊藤さん　わからないことをきちんと答えてさしあげるのが着物屋の役目だと思っています。
これはどう着たらいいのか、この用途でこの着物は適しているのかとか、どうぞお気軽におたずね下さい。
日本の伝統美を伝えていくことは作り手さん達への還元でもあります。
買うとか着るとか、それ以前に、こんなにたくさんの人たちの繊細な手仕事と技術の上に着物がなりたっているんだということを知って欲しいですね。
まずは「着物」自身がもつ伝統工芸としての美を身近に感じて欲しい。そのための努力を、呉服屋として、今後も惜しまず続けていこうと考えております。